「誠殿!誠殿はおいでか?!」
ロンズは険しい表情を浮かべて、荒々しく誠の部屋の扉を叩く―と言うよりはむしろ、
壊しかねない勢いで打ち据えた。しかし、その音は、生みの親の期待に応えられずに、
朝の静寂の中にむなしく霧散していくだけだった。
中からの返事がないことに業を煮やし、ロンズは、更にあらん限りの声で叫んだ。
「誠殿!ならば、勝手に入りますぞ!!」
ロンズがドアを蹴り破ろうと足を振り上げたところで、中からやっと返事が返ってきた。
「ロンズさん、そないに急かさんで下さいよ。僕にも都合っつうもんがあるんや。」
あからさまに迷惑そうな誠の声に、ロンズは頭の中で何かが切れかけたが、残る理性
を総動員して何とかつなぎ止め、なるたけ冷静に口を開いた。
「誠殿の言うことももっともでありますが、某と致しましても火急の用でして。扉を開けてく
れますまいか?」
ややあって、扉がゆっくりと開き、誠が顔を出した。その全身がしっとりと汗ばみ、上気
していることに気づいたロンズではあったが、あえて余計な詮索はせず、用件だけを声に
する。
「誠殿。昨夜ファトラ様が置き忘れたものを取りに参りました。」
「忘れ物?何のことや?」
誠が訝しげな顔で聞き返してくる。それに対し、ロンズは誠を見据えつつ、意図的に、
落ち着いた低い声で返答した。
「おとぼけになられては困りますな。ファトラ様が持ち込んだ先エルハザードの遺物のこと
です。」
その言葉に誠が動揺した一瞬の隙をロンズは見逃さなかった。誠を押しのけ、素早く部
屋に入り込んで、睨め付けるように周囲を見回す。
すぐさま、ベッドの側に築かれた遺物の山が目に入った。ストレルバウが見たら何と言う
だろう?おそらく怒り出すであろうが、そんなことなど今は問題ではない。
今、問題なのは―
遺物の山をひっくり返し、2,3度かき混ぜたところでそれは見つかった。ファトラが旅の
帰路に発見し、昨晩誠の部屋に持ち込んだという遺物。
ロンズはそれを拾い上げると、部屋の入り口で溶け始めた氷像のように冷や汗をたらし
ている誠に振り返った。そして、一言だけ静かに告げる。
「誠殿。申し訳ありませぬが、王宮広間までご足労願いたい。」
誠に拒否権はなかった。なぜなら、彼の両隣にはすでに棍を手にした衛兵がいたのだ
から。
「ちょっとロンズさん、いきなり何なのよ!」
ベッドの上で毛布にくるまって状況を見守っていた菜々美が初めて口を開いた。
部屋に菜々美がいたことは、先程部屋を見回したときに気づいていたが、入り込んだ
部屋のベッドの上に女性がいた場合、気づかないふりをするのが、礼儀であるし、なに
より、相手にしてしまうと、迅速な公務執行に支障を来す場合が多い。
だから、それに対しロンズは、振り返りもせずに淡々とした口調でいつも通りの返答した。
「詳しいお話は、王宮広間で致します故、衣服を整えてからおいで下さい。」
言うが早いか、ロンズはそのまま誠を連れて部屋を後にした。ドアをしめた直後に、その
ドアの内側に何かがぶつかる音と菜々美の叫び声が聞こえたが、さすがに毛布だけの格
好で菜々美が出てくることはないだろうと判断し―実際出てこなかったので―ロンズはそ
のまま、衛兵に両脇を固められた誠を見据えつつ王宮広間への廊下を進み始めた。
王宮広間へ走りつつ、菜々美は誠が拘束された理由を考えていた。
「誠ちゃんが、ファトラさんを襲ったから?でも、そんなことファトラさんだってやってること
じゃない!自分はやってるくせに自分がやられたら、犯罪者扱いするわけ!?そんなの理
不尽だわ!絶対抗議してやるんだから!!」
王宮広間への廊下には、等間隔で衛兵が配置されており、巡回兵にも幾度か出くわし
たが、何故か全員が逃げるようにして道をあけてくれた。いつもなら気分爽快というところ
だが、今はそれどころではない。
目の前に現れた王宮広間の扉をほとんど張り手と変わらない勢いで押し開け、菜々美
は広間に踏み込んだ。それと同時に視界が一気に開ける。学校の体育館ほどの広さを
した空間。そのほぼ中央あたりに誠が立っていた。両脇を衛兵に固められて。
「誠ちゃん、大丈夫?」
菜々美はすぐさま、誠の側に駆け寄って声をかけた。
「心配してくれて、ありがと、菜々美ちゃん。」
それに気づいた誠が振り向いて、笑いかけてきた。
「ち、ちょっと誠ちゃん。何そんなに落ち着いてるのよ?」
拘束されている誠本人よりもよっぽど慌てている菜々美に向かって、誠が珍しく不敵な
笑みを浮かべて答えてくる。
「起こってしもうた事実を、どないに巧く虚偽で覆い隠したとしても、事実の輝きを完全に
封じ込めることはでけへん。どないに小さなほころびからでも、その輝きが漏れ出してくる
からや。そして、暴かれた虚偽は一転して生み出した者を害する刃となるんや。」
そこで、誠は、一旦言葉を切った。
菜々美は、誠のいつになく婉曲な言い回しに対して、しばしの間きょとんとしていたが、
どうやら、誠が自分の返答を待っているようだったので、とりあえず、自分なりに理解した
ことをそのまま口に出してみた。
「えっと…何だかよくわかんないけど要するにウソをついても、すぐばれるし、そいでもって
自分の立場がますます悪くなるって事?」
眉根を寄せて問い返した菜々美に対し、誠も少し眉を寄せて、何かを言いかけようとした
ようだったが、結局口から出てきたのは先ほどの言葉の続きだった。
「え…っと、まあ、そないなとこやな。なら、どうするんが最善かと言うと、落ち着いて自分
の立場を再確認し、自分に有利な事実を見つけることや。事実の対して対抗できるんは
事実しかない。」
先程と違って、直接的な言い方だ。どうやら、どんな言い回しをしても、いちいち意訳され
ては、無駄になると悟ったらしい。
(つまり、落ち着いてるのは、その『対抗できる事実』を見つけたから?)
ファトラを襲ったという事実を帳消しに出来る事実などあるのか甚だ疑問だったが、誠の
自信に満ちた態度から察するにあるのだろう。そう察した菜々美は、ここで初めて広間の
奥―上座の方に視線を移した。
上座へと続く深紅の絨毯の両側に等間隔に並ぶ衛兵、その一番奥、左に険しい顔をした
ロンズ侍従長が立っている。右側には、ストレルバウ博士が床にクッションを敷いて座って
いるのが見える。こちらは手に持った何かをじっと観察しているようだった。
そしてその更に奥、正面にある階段を5段ほど上がった壇上に、こちらを見つめている
ルーン王女と伏し目がちなファトラ王女が座っていた。
菜々美の視線を正面から受け止めて、ルーンがゆっくりと口を開いた。
「突然、お呼び立てして申し訳ありません。どうしても、早急に状況を把握しておきたかった
ものですから、少々強引になってしまいました。その点はお詫びいたします。」
(そう思うんだったら、やらないでよ。)
と、菜々美は小さく毒づいた。隣にいる誠にも聞き取れないくらいの声で。
「菜々美殿。」
「は、はい?」
ルーンに声をかけられて、菜々美は思わず裏返った声で返答した。
「どうかしましたか?菜々美殿。」
菜々美のその声にルーンがきょとんとした表情を浮かべた。
「あ、いえ何でもないんです。どうぞ、続けて下さい。」
もしかして今のつぶやきが聞こえていたのかとも思ったのだが、どうやら、違うようなので、
菜々美は、得意の笑顔でごまかした。
「そうですか。」
ルーンは少しの間置くと、表情を元の厳格なものに戻し、質問を始めた。
「はじめに確かめておきたいのですが、菜々美殿は昨晩から、今朝にかけて、誠殿の様子
がおかしいとお思いになられたことはありませんか?」
思い返すまでもなく、昨晩から今朝までに起こったことははっきりと覚えている。だが、
その一つ一つが、この場でしゃべるのは避けたいことばかりだった。
菜々美が言いよどんでいる内に、その表情からそのことを察したらしく、ルーンが再び口を
開いた。
「わかりました。そのことについては結構です。本題に入りましょう。」
そういうと、ルーンはちらりとファトラに視線を移した。だがファトラは相変わらず気まずそう
な表情で菜々美と誠の足下あたりに視線を漂わせている。
それを確認して、少し表情を曇らせ、ルーンは再び視線をこちらに戻してきた。
「誠殿。」
「なんでしょう?」
誠が落ち着いた声で返答する。
「昨晩、ファトラがお部屋に伺ったそうですね。」
いつもと変わらない、落ち着いた口調で、ルーンは誠に問いただしてきた。だが、菜々美
にはその言葉がひどく冷たいものに聞こえた。思わず横にいる誠を見る。
「えぇ。僕のベッドで気持ちよさそうに寝てました。」
動揺している様子など微塵も見せずにあくまで、落ち着いた様子で誠が返答する。
ここまで来ると開き直りともとれる。現にロンズはそうとっているようだった。苦虫をかみつ
ぶしたような表情でこちらを睨んでいる。そのことに誠は気づいているのだろうか?気づいて
いないわけはないと思うのだが、表情は変わらない。いや、意図的に変えないのかもしれ
ない。だが、それはどう考えてもロンズの神経を逆撫でしていた。
(ロンズさんがさっきから怖いよぉー。)
隣にいる菜々美の方が無言の圧力に気圧されて怯えていた。無意識のうちに誠の服の
裾を強く握りしめていたくらいだ。
ルーンは誠の言葉に動揺を隠せない様子であったが、一呼吸置くと、その動揺を押し殺す
ようにして、後を続けてきた。
「その時にファトラが先エルハザードの遺物を持ち込んだとか。」
ルーンのその言葉に誠は肩をすくめて見せた。
「えぇ。ファトラさんが無理矢理シンクロさせるもんやから暴走したんですわ。」
ファトラの体が小さく揺れたのを見て、菜々美は不意に理解した。
「それじゃあ、誠ちゃんが被害者で、悪いのはファトラさんなんじゃない!?」
菜々美は逆転満塁ホームランをスタンドに叩き込んだような気分でファトラをびしっと指さ
して頭に浮かんだ台詞をそのまま声にした。
「それは…」
ファトラがはじめて、声を出した。しかし、それはいつもの自信に満ちあふれた声ではなく、
今朝にも増して元気のない、およそファトラらしくない落ち込んだ様子の声だった。
菜々美はそれを聞いて何故か自分の兄、克彦の不正の証人として誠が、生徒総会の
証言の場に立たねばならなくなったときの誠の声を思い出した。声が似ていたわけでは
ない。何となく雰囲気が似ていたのだ。
しかし、ファトラの口からその続きを聞くことは出来なかった。ルーンがそれを制して、
再び口を開いたからだ。
「そのことについては、確かにファトラに非があります。ですが、今日お呼びしたのはその
後のことについてなのです。」
その言葉を聞いて、ファトラに突きつけられたままだった菜々美の指先が見る見る力を
失い、重力に抗えなくなって腕ごと下に落ちていた。
遺物の暴走がファトラのせいだろうと、誠がファトラを襲ったことの言い訳にはなりえない。
せっかくのホームランもバッターボックスから足が出てしまっては無効になってしまう。結局
の所、状況はまるで変化していないのだ。
判決を受ける囚人の心境で(というのはまるで比喩になっていないが)、菜々美は固唾を
飲んで、ルーンの次の言葉を待った。
だが、次の言葉を発したのは、菜々美の予想を裏切る人物―ストレルバウだった。
「誠くん。この遺物はいったい何なのだね?暴走したとはいえシンクロしたのならば、君には
これがなんなのか解っているのだろう?」
ストレルバウがその遺物を目の前に掲げて誠に問う。その場にいた全員の視線が、遺物を
経由してから、誠に到達する。ファトラも今度ばかりはその答えが気になるらしく、誠を見つめ
ていた。
その視線を浴びながらも、誠は全く動じる様子もなくストレルバウの方に顔を向けた。そして、
静かに一言だけストレルバウに答える。
「それを解明するんが、博士の仕事やないですか。」
誠が発したその一言に一瞬、全員の動きが止まる。予想外の言葉に頭がついていかなかっ
たのだ。
その呪縛から最初に抜け出したのはロンズだった。
「誠殿っ!我らを、いや、殿下をこれ以上愚弄する事はお止めいただきたい!!」
誠のあまりにも人を小馬鹿にした態度に耐えきれなくなったロンズが、ほとんど叫び声に
近い声を上げる。近くにいた衛兵が慌てて抑えなければ、誠に掴みかかっていただろう。
「ち、ちょっとぉー、誠ちゃん。まじめに答えないと立場がどんどん悪くなる一方よ?」
誠に何か考えがあるんだろうと思って今まであえて誠に何も言わなかったが、さすがに
心配になって菜々美は、誠に耳打ちした。
「心配してくれてありがと、菜々美ちゃん。でも、僕はいつでもまじめやで。」
菜々美の心配をよそに誠はそういいながら、菜々美の肩に手を回してそっと抱きよせた。
途端に菜々美の頬が朱に染まる。
(あ、そんな。みんなが見てるのに。でも、でも、嬉しい。幸せー。)
菜々美の頭の中をそんな言葉が駆けめぐる。そしてそのまま目を閉じ、誠の胸の中で幸せ
を満喫する。周囲の状況などもう、頭になかった。
誠は菜々美のそんな様子を見て、満足げに微笑むとその体勢のまま再び上座に視線を
移し、呆気にとられている面々を見渡した。
「誤解せんといてください。僕は、博士の助手としての立場から、博士のご意見を伺いたいと
思うたまでです。博士。博士はそれをどう見立てました?」
言っていることは筋が通っているような気もしないではないが、菜々美を抱きしめながらで
は、ただでさえない説得力が根本的に抜け落ちてしまっている。そのことに気づいていない
のは当の誠本人と幸せを満喫している菜々美だけだった。
そんな中、話を振られたストレルバウの咳払いが響いた。
「ファトラ様を診察した宮廷医師団の報告によると、身体的にはなんの問題もなかったと言う
こと。つまり、少なくとも殺傷を目的とした兵器の類ではない。そして、ファトラ王女と誠くんの
この変貌ぶりを見るに精神的に何らかの影響を及ぼす物であるのは間違いない。だが、少
なくとも本人ではあるらしいから、不完全な人格変換器であるというのが、わしの見解なの
だが、どうかね?」
ストレルバウのその答えに誠は満足げな表情を浮かべた。菜々美はまだ、その胸で、
幸せを満喫していた。
「さすがは博士。ほぼ、その通りです。でも、不完全なのは、その遺物のせいやのうて、
途中で暴走したのと風雨に晒されていたせいで多少ガタが来ているせいやけど。」
「では、もう一度使えば、ファトラも、誠殿も元に戻るのですね?」
それを聞いたルーンが、表情を明るくして誠の問いかけた。しかし、それに対する誠の
答えは冷たかった。
「そうもいかへん。さっき言ったようにその機械はガタがきとる。暴走したのもそのせいや。
そのまま使ったら、元に戻る前に完全に壊れてしまうやろな。」
「それでは、ファトラも誠殿もこの先ずっとこのままと言うことですか!?」
誠のその言葉にショックを受けたルーンが、半ば放心状態でつぶやく。そして、ゆっくりと
隣に座っているファトラの方に顔を向けた。
ファトラもルーンを見つめていた。そして、笑顔で姉に声をかける。「姉上、そんな顔をなさ
らないで下さい。原因を作ったのは妾なのですから。それに死ぬわけではありません。それ
よりも姉上がそんな顔をしていることの方が辛うございます。」
「ファトラ…」
感極まってルーンが涙を浮かべながらファトラの手をそっと握る。その様子を見てロンズが
涙を流しながら、誠に詰め寄った。誠が菜々美を抱いているせいで、掴みかかることは出来
なかったが。
「誠殿、何か方法はないのですか!そのためにはこのロンズ、一命を賭する所存!」
必死な形相で顔を突きつけてくるロンズに向かって、誠はあくまで冷静に返答した。
「ロンズさん、その忠誠心には敬意を表しますが、ロンズさんにはどうにもでけへん。」
きっぱりと断言されてロンズがショックを受けて後ずさる。
「そ、それではどうしようもないと?」
「それはストレルバウ博士次第や。」
そういうと、誠はロンズの肩越しにストレルバウ視線を合わせた。
「わし次第?どういうことかね、誠くん。」
誠の言葉にストレルバウが興味深そうに反応する。それを受けて、誠は人差し指を立てて
説明を始めた。
「動いたということはメイン部分は多分大丈夫な筈や。周辺部分の老朽化したり、断線した
コードや、ゆるんだねじを交換して締め直すくらいなら何とかなるでしょう?」
「なるほど、シンクロ修繕を行うわけだな?」
ストレルバウが左手で顎髭を撫でつけながら答えてくる。
―シンクロ修繕、というのは、誠とストレルバウが今までの研究で編み出した、遺物の修繕
方法で、文字通り、誠が遺物へのシンクロを行い、動作確認をしつつ、ストレルバウが、部品
交換などを行うというものだ。
ただ、このシンクロにはかなりシビアなコントロールを必要とするため、一回につきせいぜい
一分間が限度の上、精神的疲労が激しく、少なくとも十分以上の休息を必要とするので、
あまり効率の良い物ではない。
ストレルバウの方にしても機械の電源を入れたまま修繕作業を行うような物だから、かなり
の危険が伴うこととなる。
しかし、今まで壊れてしまったら、どうすることもできなかった先史の遺産を軽度の破損なら
直すことが出来るようになったのだから、大幅な進歩であることは間違いない。多少の危険を
冒してでもやる価値は十分にあった。
「そうと決まれば、早速準備に取りかかるとしよう、誠くん。」
ストレルバウが早々に立ち上がる。王女への忠誠心はもとより、この新しい遺物への学術的
な好奇心が、ストレルバウの心を後押ししていた。
「博士、落ち着いたって下さい。その前にまだやることがあるんや。」
「何かね、誠くん?」
やる気に水を差されて、ストレルバウが不満げな声を上げる。一筋の希望の光を見いだして、
表情を明るくしていたルーンとロンズも一転して不満げな表情を浮かべている。
「朝御飯を食わせて下さい。腹が減っては戦はでけへん。」
三人のその表情に気圧されることなく、誠は本能的欲求を訴えた。
それを聞いて、誠の胸の中で幸せをかみしめていた菜々美はぱっと顔を上げた。
「それじゃあ、私、急いで、作ってくるね。」
少し名残惜しかったが、誠から離れ出口に向かって駆け出す。目指すは厨房だ。実のところ、
途中から話を全然聞いていなかった。聞いていたのは、誠の息づかいと、心臓の音、そして
腹の虫であった。
だが、雰囲気から察するにどうにか話はまとまったようだし、誠の立場は悪くなっていないよう
だ。なら、今やるべき事はただ一つ、おなかをすかせた誠に愛情たっぷりの朝御飯を作ってあげ
るのだ。
「それにしても、今日の誠ちゃんって積極的☆いつもこんなだったらいいのに。」
重要なことを全く聞いてなかった菜々美は上機嫌な軽い足取りで王宮広間を後にした。
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