気まぐれ菜園
<<一覧に戻る
「今日の部活は豆まきを行うよ!鬼は…羽入!!」
「鬼は〜外♪」 そう言うや否や、魅音は少し離れたところにいた羽入に持っていた豆を投げつけた。 魅音の名誉のために言っておくが、魅音に他意は全くなかった。たまたまそこに羽入が居て、たまたま目があった部活メンバーが彼女だった。ただそれだけだった。魅音にとっては誰でも良かったのだ。部活メンバーは全くの対等。そこに差別も贔屓もない。ただ、今回ばかりはそれが裏目に出てしまった。 羽入に当たる直前に豆が空中で一瞬停止した様に見えた。それに魅音が疑問の表情を浮かべる間すらおかず、その豆が魅音に向かって戻ってきた。 「痛ったたた、たっ!?」 「不意打ちなんかなさるから罰が当たったんですわ」 「お、羽入もやるもんだな。今のどうやったんだ?」 為す術もなく豆を浴びた魅音を沙都子がはやし立て、圭一が感嘆の声を上げる。しかし― 「天に唾すれば己が身に返ると知れ…」 地の底から響くようなその声を聞いて、その場の全員が硬直する。皆、その声が羽入が発した物だと気付くのに数秒を要した。 「羽入ちゃん…怒っちゃったのかな?かな?ほら、羽入ちゃん怒っちゃったよ?魅ぃちゃん、謝らないと」 レナが羽入と魅音を交互に見て取りなそうとする。しかし、羽入は聞いてないようだった。 「我を豆持て打ちのめし追い祓おうとは…人の子よ。人と鬼を取りなしたる我が教え、忘れたと申すか?」 「…えっと、羽入…サン?」 「み〜、どうやら変なトラウマスイッチが入ってしまった様なのです…」 そう言いつつ、梨花はじりじりと後退を始めていた。鬼神モードに入ってしまった羽入に何を言っても無駄なことは経験上分かっていたから。とばっちりが来る前にこの場から消えるのが最上にして唯一の対処法だ。しかし、皆がそれを許してくれなかった。 「ち、ちょっと梨花ちゃんっ見捨てないでよぅ!」 「一人で逃げようなんてずるいですわよ!!」 「この場は梨花ちゃんだけが頼りかな?かな?」 「梨花ちゃん!俺たちは仲間だろう!?」 「あ〜、もう、邪魔よっまとわりつかないで!私は関係ないでしょう!?巻き込まないでよ!!」 縋り付いてくる皆を必死に振り解こうとする梨花。しかし、多勢に無勢以前に体格差がありすぎて身動きを取るのもままならない。 「くっ、肉体年齢があと5歳もあれば!!」 そんな皆の様子を見て、羽入が大きくため息をついたかと思うと。 「押しつけあわねば済まぬ人の世の罪…だが、我がそれを赦そう。人の罪を赦そう…」 その言葉を聞いて、青ざめていた皆の顔がぱぁっと明るくなる。が、次の瞬間、羽入の手に現れた物を見て、先ほど以上に青く、いや血の気が引きすぎて白くすらなっていた。 「我が剣にて人の子の罪を禊ごう。そなたらを赦そう…」 羽入が手にした奇妙な形の大剣を大きく振りかぶる。 「羽入、それ、洒落になってないっ!!」 「にーにー、助けてっ!にーにー!!」 「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」 「ごめんなさい、ごめんなさい!ごめんなさい!!」 「嘘…やめっ」 そんな皆の叫び声の全てを、羽入の鬼狩柳桜の一閃が飲み込んだ。 奇跡的に…と言うべきか、教室は半壊しているというのに、死傷者は出なかった。正確に言えば、かすり傷一つ負っている者すらもいない。これが神通力という物なのか、ととっさに皆を盾にしてその陰に隠れたおかげで一人気絶していない梨花は感心する。とはいえ、一人だけ難を逃れたのが羽入に知れたらどうなるか分かった物じゃないので、気絶しているフリは続けた。 どれほど経ったろう。もう良いかと薄目を開けてみたら、目の前に満面の笑みを浮かべた羽入の顔があって、思わず飛び退こうとした梨花だったが皆の下敷きになっていたため微動だに出来ず、結局、そのままオヤシロ様の巫女のなんたるかを延々と聞かされる羽目になってしまった。 「み〜、僕は何も悪くないのですよ…」 その一言でお小言が更にプラスされたのは言うまでもない。 ちなみに、教室の修繕費は魅音が園崎家に頼み込んで捻出したらしい。張本人の羽入が神通力で何とかすればいいのに、と梨花は思ったのだが、羽入曰くアレで溜めていた神通力を使い果たしてしまい、再チャージに時間がかかるのだとか…それまで、この豪雪地帯の雛見沢で青空教室はあまりにも辛すぎるので断念せざるを得なかった。 当然、その夜、神通力を使い果たしたことがばれた羽入は梨花に処刑用キムチの刑に処され、魅音は二度と豆まきをしようと言い出さなくなったとか。 ここにある画像は各作品の原作者および出版社、制作会社が著作権を保有しています。
無断転載は禁止させていただきます。 |